日吉の森庭園美術館にいってきました

「田辺光彰記念館」

館内は光彰氏が好んで収集したフィリピン(フィリピンルソン島の主にイフガオ族の民具・神具)などの東南アジアの生活の中に使われていた、「作品」と、そこからインスピレーションを受け、作家活動をした光彰氏の作品が展示されていた。それらを光彰氏の息子であり美術館の学芸員をしている田邊陵光さんが丁寧に案内してくださった。

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MOMI1992 1992年


東南アジアの展示品の多くは動物や人がモチーフになっているものが多くあった。東南アジアの人たちにとって、当時はアニミズムという自然界すべてのものに霊が宿っているという考え方が信仰された。特に蛇は神の象徴とされ重要なものの時に多く用いられた。また、世界遺産にも認定されたフィリピンの「バナウエ」と呼ばれる棚田のすばらしい風景写真も展示されていた。
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展示されている光彰氏の作品は「野生稲」をモチーフにしたものであった。普段私達が食べている米の稲は、何度も品種改良を重ねているため稲穂の芒(ノギ)の部分がほとんどなくなってしまった。一方、野生稲は芒の部分が稲の本体(籾)の10倍の長さである。光彰氏の作った野生稲の作品は、私たちのよく知っている稲穂とは違う、野生の稲が力強く表現されていた。

また、国連主導でビルゲイツなどが出資して、北極の永久凍土層に作ったという、植物版ノアの箱舟「ジーンバンク」。に光彰氏の作品である野生稲の彫刻も保管された。ご本人は「自分の作品が、北極までいった」とたいへん喜んでいたとのこと。ジーンバンクとは、食糧危機や天変地異によって食料不足が発生した時のための稲の保管場所であり、世界各国の栽培植物の種子を収集し保存する施設である。世界中にある食料保管庫はすべて電気で冷蔵しているのに対し、このジーンバンクは北極の永久凍土層にあるため、人類が絶滅しても種子は生き残れるというものである。

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「日吉の森庭園」

美術館と一体化している庭園を歩いた。樹齢100年をこえる金木犀やシラカシの巨木といった様々な草花、樹木が自然に生息していた。今は市内にはほとんど見ることのない珍しい樹木なども多く存在し、多くの緑にあふれていた。池周辺のデザインは、椿山荘を造園した方がかかわったという。美しく並べられた庭石や、手入れされた樹木。散策路からはもみじの裏側の間から池が見え、同じ池でも視点の違いによって様々な見え方があった。
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庭園内の土蔵は、築350年。3重の扉で頑丈にできていた。


お庭には、「籾—MOMI」の製作前の球体がおかれていた。このようなつるんとした球体を「アーク・エアー・ガウジング」という技法を用いて、作品を作っていくのだそう。土蔵の前にも光彰氏の作品が展示されていた。この作品は古くから横浜にあった「かずさ屋」という和菓子店から依頼されて作った彫刻の作品「豆・無限」である。

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豆・無限 1988年

「田邊泰孝記念館」

築160年の庄屋造りの建物である。3年ほど前までここで普通に生活をしていたそう。現在は記念館となっている。この美術館の創設者、田邊家12代当主田邊泰孝氏の娘である美紗代(現日吉の森庭園美術館館長)さんがここを守っている。

関ヶ原の戦いに勝った徳川家康は江戸幕府を開く際、田邊家の初代である大炊助は、現在美術館の所在する地域の管理を任された。農地改革により土地の7割を失う事になったが、その後も消防団の活動、こどもたちへの歴史の講座なども行うなど、地域の発展のために尽力した。
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館内には、人間国宝である芹沢銈介氏の絵画3点が展示されていた。どの作品もとてもカラフルで、赤・黄色・緑・青・オレンジなどの色で描かれていた。その3点のうち、鶴見川周辺をモチーフに描かれた「陽に萌ゆる丘」という作品が横浜市港北公会堂緞帳に起用された。芹沢銈介氏と泰孝氏に親交があったことから、港北区の緞帳のデザインとなり、区民に愛されている。その元になっている原画をここで見ることができるのだ。

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説明をしてくださる、田辺美紗代さん。

また、泰孝氏の叔母が明治天皇の皇后である昭憲皇太后の女官として働いていたこともあり、退官時に昭憲皇太后から頂いた、手縫いのチャンチャンコも展示してあった。

取材をして・・・

横浜北部のまちの中で、多くの田辺光彰氏の作品を発見したことがきっかけで、このように地元に息づいて作品を作り続けていた世界的な彫刻家がいたことを知りました。とてもお会いしたかったです。(2015年3月に他界されました)


横浜港北の自然の中で育ち、植生物の原点を求めて作品を作り続け、生物多様性や自然保護の活動にも貢献された彫刻家が横浜のこの地で暮らしていたこと。そしてその作品たちに、この日吉の森で、美術館や周辺の松の川緑道の中で、逢うことができる・・・。それは横浜の宝物だと思います。
みなさま、ぜひ一度足を運んでみてください!!

http://hiyoshinomori.com/